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2022.04

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最新号HASEGAWA LETTER No.40

2022年は1年にわたりHASEGAWA LETTER No. 40を掲載いたします。年間テーマは「SDGs 香り ~未来のために~」です。香り・香料の分野から、社会に対しどのような働きかけができるのか、自然科学、香料業界などの専門家・研究者の寄稿、当社研究員による技術レポートから考察していきます。

Library

HASEGAWA LETTER No. 35(2016年発行)以降に掲載された長谷川香料の研究員による技術研究レポートをご覧いただけます(一部準備中)。併せて、創刊号(1994年発行)からの掲載記事については、テーマ一覧をご案内しています。

香りの用語解説

香りや香料の専門的な言葉や技術については、あまりなじみがないかもしれません。香りの専門分野で用いられている用語や香料技術など、一つひとつにフォーカスを当てて図解します。香料の不思議な世界をのぞいてみませんか。

About

HASEGAWA LETTER onlineは、長谷川香料(株)がお届けする香りと香料の情報サイトです。
1994年創刊以来変わらぬ「香り・香料への想い」を伝えます。

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<3分でわかる解説>地球存続の鍵を握るバイオテクノロジー
 地球温暖化や感染症など人類は今、地球規模の多くの課題に直面している。産業革命以降の革新的な科学技術の発展により豊かな社会が構築され私たちもその恩恵を受けてきたが、一方でこうした一連の課題は人類の活発な社会活動の弊害と言える。環境問題に関してはこれまで生命体ともいえる地球の自浄能力によって修復が図られてきたが、現在はその能力をはるかに超えている。この環境保全は微生物とその多様性に大きく依存しているが、地球上のさまざまな生命体は独自の代謝系を進化させて、それぞれの生存戦略に基づいて相互関係を築きながら棲息・繁栄をしている。
 近年、ライフサイエンス研究の急速な進展により生命の神秘に関わる多くの発見やシステムの詳細が解明されてきたが、生命の厳密でありながら柔軟性のあるシステムに倣った革新的な技術が、バイオテクノロジーを超えて多くの分野で研究・開発・応用されている。人を含む地球上のさまざまな生物間コミュニケーションや相互作用を理解し、社会・経済システムに応用することは、理想的なバイオエコノミー社会の実現に大きく貢献するものと考えている。
 筆者らは、微生物の機能を高度利用したモノづくり技術の開発研究を展開しているが、緻密で統制のとれた厳格な生命システムに魅了されることが多い。一方で、生物の生存戦略に基づく巧妙で柔軟性のあるシステムの一端を見出し、それをデザイン・活用することでこれまでにない拡張性の高い技術を開発することに成功している。本稿では、L-アミノ酸で形作られているこの地球上の生命システムにおいて、鏡像異性体であるD-アミノ酸の生存戦略上の必要性を明確にした上で、D-アミノ酸を含むペプチドの新たな酵素合成法の開発について紹介した。化学反応と酵素反応の長所を融合させたユニークな化学酵素的反応系の開発によってアミド結合形成を達成することができ、従来にはない光学活性を制御した任意のペプチド合成法の開発に成功した。さらに、環状ペプチドなど特殊構造を有するペプチドや多様なアミド化合物の合成を可能とするプロセスの開発にもつながった。
 微生物の機能を利用するバイオテクノロジーは、多様な産業分野を開拓し、食品、医薬品、化成品、香粧品など多くの製品を創出してきたが、最先端ICTなどの情報工学やAIやロボットなどにおける技術革新を背景に、総合的な知の融合をさらに進めていくことで、地球温暖化を抑制しつつ、持続可能で豊かな社会の実現に貢献する新たなイノベーションが創出されるものと確信している。
<3分でわかる解説>バイオ技術を用いたセスキテルペノイド合成法
 セスキテルペノイドは天然に存在する化合物群の一種で、グレープフルーツの香りを特徴づける(+)-nootkatoneや、黒コショウやシラー種ワインの香りを特徴づける(−)-rotundoneなどの化合物がこのグループに属している。これらは非常に少ない量でフルーツやスパイスなどの天然物の香りを表現できる有用な香気化合物であるが、天然に存在する量が限られるため、工業的な利用には合成手法の確立が重要になる。
 そのような状況の中、われわれは鉄還元酵素と鉄キレート触媒を組み合わせた、セスキテルペノイドの新規合成法を開発した。この手法が従来の酵素合成法と異なる点としては、基質選択の自由度が大きく向上したことが挙げられる。一般的な酵素反応の場合、反応は酵素内部の空間で進行するため、その空間に形状がマッチした基質のみで反応が進行する(基質特異性)。そのため、目的の酵素を探し出すためには数多くの候補をテストする必要があり、時間と労力を要する場合が多い。
 これに対して今回新しく開発した反応系では、酵素の中心構造をモデルとした鉄キレート触媒が酵素の外側で反応するため、基質特異性の制約を回避することができる。そしてその鉄キレート触媒は鉄還元酵素によって活性化されるが、そのエネルギー源には糖を利用する循環型の反応システムとなっており、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)の理念に合致したモノづくりを目指すことが可能となった。
 近年の香気分析技術の向上によって、セスキテルペノイドを一例とした微量香気成分の発見事例が増えてきている。有用な微量香気成分を活用することで、香料としての品質を高め、優れた製品を提供できるようになるため、その工業的な需要は今後も高まることが予想される。酵素合成法はまだまだ新しい手法を模索する段階にあることが多いが、今回のような研究を続けて知見を積み重ねることで、酵素合成法を利用できる場面は増えていくものと思われる。バイオ技術の最新動向に注目しつつ、酵素や発酵を用いた香気化合物の製法開発にこれからも努めていきたい。
<3分でわかる解説>サステナブルで香り豊かな社会を目指す
 私たちの身の回りにはさまざまなにおいがあり、朝起きてから、夜寝るまで香りに囲まれて生活しているといっても過言ではない。菓子や飲料などの加工食品、せっけん、シャンプー、洗剤などの家庭用品には香料が使用されており、香りによって生活に彩りが添えられている。
 香料は、植物や果物など自然界にある原料からつくられ、最終商品(加工食品や家庭用品)に使用されるまで長い道のりをたどる。その間、あらゆる場面においてSDGsに掲げられた課題と直面している。例えばアイスクリームに使用されるバニラ香料の原料であるバニラは、アフリカなど気候変動の影響を受けやすい地域で栽培されている。このような原料を調達する際には、栽培農家に対する支援を通じた地域社会経済への配慮が必要になる。
 一方、天然原料を枯渇させないために、石油をはじめとする安定供給が見込まれる原料から化学的に合成された香料化合物バニリンを用いるという選択肢もある。バニリンはバニラのにおいの主成分で、合成されたものも天然から抽出されたものも、化合物としては同等といえる。香料で使う合成原料は、安全性を確かめた上で規制を守って使っていくことが大前提となる。
 収穫されたバニラビーンズは、そのままではにおいがないが、キュアリングと呼ばれる熟成工程を経ると、バニラ独特の風味が発生する。キュアリングを終えたバニラビーンズが出荷され、原料として調達した香料会社の工場でにおい成分が抽出加工される。天然原料を使用する、あるいは香料化合物を合成する工程においても同様に、省エネ対策、環境への影響を最小限にすることが必要である。さらに、作業現場で働く従業員の労働安全確保も重要である。香料を使用するアイスクリームメーカー(香料のユーザー企業)に対しては、安全に使用してもらえるよう、香料会社として品質保証書や製品ラベルなどによる情報提供が必須である。
 天然原料の保護や環境への配慮、品質と安全性などの取り組みは、一部は法律で定められているが、各香料会社が独自に研究開発、工夫してすでに実施されているものもある。各社の取り組みを補い、香料産業界全体でSDGs達成に向けて前進するために5つの重点分野(①責任ある調達、②環境フットプリント削減、③従業員の福利向上、④製品の安全性、⑤透明性とパートナーシップ)を骨子として、策定されたのがIFRA-IOFIサステナビリティ憲章である。

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