赤ちゃんの匂いと体臭の不思議
~幸せなコミュニケーションをもたらす身近な香りのはなし~
- < 3分でわかる解説 > 赤ちゃんの匂いと体臭の不思議
- 人間にとって嗅覚は、視聴覚の発達に伴いとかく軽視されがちな感覚です。しかし、一方で、私たちは、自分たちをとりまくあらゆる生活場面において、香りが愛おしさや心地よさをもたらすことや、記憶と深く結びついていることも知っています。昔、あるワークショップで、輪になって座ってもらった20人のお母さんの周りを目隠しした小学生が歩いて回り、自分のお母さんを匂いだけで当てられるかというアクティビティをしました。するとほぼすべての子供が、自分のお母さんを探し当てることができました。最新の科学研究の世界でも、男性が排卵期の女性の香りを好むことや、子供を産んだ女性が新生児の着た産着の匂いを快く感じ、さらに脳内の報酬系に関わる領域が活性化されるということが明らかになっています。つまり、私たちは最も身近な匂いである体臭を知らず知らずのうちにコミュニケーションのツールとして使っているのです。
東京大学大学院農学生命科学研究科生物化学研究室では、人と人のコミュニケーションを豊かにする香りの探究を行っており、そのキーとなる成分が体臭にあるのではないかと仮説を立ててさまざまな研究を進めています。最新の研究では、世代を問わず多くの人がほっとすると答える“赤ちゃんの匂い”を特定し、その匂いを嗅ぐことでお母さんの愛情ホルモン(オキシトシン)が上昇することが分かりました。これは、赤ちゃんの体臭中の特定の成分が母子間コミュニケーションに果たす役割を世界で初めて明らかにした重要な知見といえます。このように、ヒトが本来持っている体臭の中から、私たちがポジティブになる香りを見いだすことができれば、香害や化学物質過敏症といった問題を気にすることなく、その香りを空間の香りデザインや香り製品に用いることができると期待しています。