多様性は現代の重要なキーワードです。価値観の多様化により、ライフスタイルにも変化がみられます。香料においても日常生活では個性の演出や、リラックスのために活用されています。さらに食生活でも嗜好や飲食シーンが多様化するなか、香りがどのような役割を果たしていけるか興味の湧くところです。2025年のHASEGAWA LETTER onlineでは香り周辺の多様性についてさまざまな角度からのアプローチを試みます。

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社会の中の香り

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色で紡ぐ香りのイメージ
〜見えない香りを見えるように〜

湘南工科大学情報学部情報学科講師
若田忠之

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<3分でわかる解説> 色で紡ぐ香りのイメージ
 香りの印象やイメージを表現することは非常に難しいことが知られている。例えば、「家で使っているシャンプーの香り」のイメージを他者に伝えようと想像してみると、どのように言葉を選ぶか悩むだろう。そこで、色を使った香りの印象・イメージ表現について記す。
 香りは形容詞を使った表現と、比喩表現を軸として表すことが多い。比喩表現はそもそもオレンジを知らない人に対して「オレンジのような」といっても伝わらない。
 そこで、言語情報だけでなく、色を使った視覚的な表現を加えることでより香りの印象・イメージの表現がしやすくなるのではないかと考えた。
 色は、色みを表す「色相」、明るさを表す「明度」、あざやかさを表す「彩度」の3つの属性で表現ができる。さらに、明るさの明度とあざやかさの彩度を組み合わせたトーンという考え方があり、このトーンを使うことでイメージをうまく表現できそうだということが分かってきた。
 色を使った香りの表現では、まず最もシンプルな方法として嗅いだ香りに対して「どの色が調和するか」といった調和色の選択を行った。合わせて言語的な表現でどのような印象があるかを調査すると、調和する色が共通する香りではその印象も共通することや、そこでは色の明るさ、あざやかさが関連しており、トーンを使うことでうまく当てはめられそうなことが分かった。
 そこで、色の大きさを調節して香りのイメージを表現する専用のアプリケーションを作成し、より詳細に色と印象・イメージの関係性を調査してみると、やはり同じような色を使って表現される香りは、言語的にも同じようなイメージがもたれることが分かった。
 これらの調査は大学生が対象であったが、香りの専門家である調香師を対象に評価を行ったところ、そこでも同じような結果が得られた。しかし、調香師は評価する個人の間であまり差がなく、言語、色問わず評価の精度が高いことが明らかになってきた。
 最後に色を使って言葉を直接表現してみると、「軽いー重い」のように正反対の意味の単語では、色の使われ方が真逆であることが分かった。さらにこれらにもまた色の明るさやあざやかさも関連しそうなことも分かってきた。この結果でも、やはり学生と調香師を比べてみると全体の傾向には差がないが、調香師のほうが評価の精度が高いということが繰り返し示された。
 これまでの研究から色を使うことで香りの印象・イメージを表現することが可能であることが見えてきた。今後は研究成果を実装したアプリケーションの開発・公開を行うことで香りの印象表現の一助となることを望む。

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自然科学香話

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嗅覚受容体とそれを用いた匂いセンサーの開発
~国際交流で発展した嗅覚研究の成果~

東京農工大学大学院工学研究院卓越教授
養王田 正文

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<3分でわかる解説> 嗅覚受容体とそれを用いた匂いセンサーの開発
 飛行場での麻薬や爆発物の探知で犬が活躍しています。化学物質を検出する様々な装置が開発されていますが、犬の嗅覚に匹敵する検出装置は開発されていません。私たちの研究の目的は、嗅覚の謎を明らかにし、犬に匹敵する検出装置を開発することです。皆さんに知っていただきたいことは、犬や人の鼻には多数の嗅覚受容体と呼ばれるセンサーがあることで、膨大な種類の匂いを感じていることです。味覚のセンサーが数種類であることと比較すると、その複雑さが理解できると思います。生命科学研究のフロンティアの1つです。本稿で、最先端の研究の難しさと魅力を感じていただけるなら幸いです。

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OUR 技術レポート

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多彩なユズの香り
~状態によって変わるユズ~

長谷川香料(株)総合研究所
冨田直己

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<3分でわかる解説> 多彩なユズの香り
 ユズは日本の伝統的な香酸柑橘の一つである。その香りの魅力は日本にとどまらず、食でも香粧品でも世界で知られるようになってきた。ユズの香りの魅力についての研究はこれまで果皮を傷つけて得られる果皮油に関するものが中心であった。生活の中で感じるユズの香りに目を向けると果皮を傷つけた状態だけではないことに気が付いた。ユズが置かれた一帯が華やかな香りになったり、冬至にゆず湯で癒やされたりしたことがある方も多いのではないだろうか。今回はそういった状態に注目し、果皮を傷つけない丸ごと(以下:ホール)のユズが置かれた空間とゆず湯の香りを研究することとした。
 果皮油の香りと比べるとホールの香りはフルーティで明るく、ゆず湯の香りは柔らかく温かい感じがして、同じユズの香りであるが、印象は異なる。分析を行った結果、大きな成分のバランスは異なるものの、果皮油の研究で発見したユズらしさに寄与するYUZUNONE®などの重要成分はどの状態でも存在することを確認した。これらの成分が存在することで、状態により印象が変わるものの、ユズの香りと認識できるのだといえる。
 また家庭で行うゆず湯を想定し、さらに研究を進めたところ、ユズを入れた後の経過時間やユズの状態の違いにより香りが異なることもわかった。わが家のゆず湯はどれに当てはまるのか、どの状態のゆず湯が好みなのか、考えながら楽しむのも一興である。
 どの状態のユズも魅力的な香りである。それぞれの状態を研究することによりユズの魅力を再認識し、多彩なユズの香りを提供できるようになった。

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THトピックス

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代替タンパク源としての
昆虫利用(仮題)

長谷川香料(株)総合研究所

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長谷川香料学会発表・論文発表

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