昆虫が教えてくれる匂いの世界
~嗅覚のしくみに倣った匂いセンシング技術~
- <3分でわかる解説> 昆虫が教えてくれる匂いの世界
- われわれが生きている環境中には実に多様な“匂い”がただよっている。そのような環境でも昆虫は、匂いをたよりに餌を探し、メスを見つけ、危険を察知する。昆虫も人間や哺乳類と同じように、“嗅覚”をもっているのだが、そのしくみは哺乳類とは少し異なる。昆虫は匂い分子を結合する部位とそのシグナルを細胞内に伝える部位が一体型の嗅覚受容体をもち、匂い分子に瞬時に応答できるしくみを備えている。昆虫の嗅覚受容体のしくみを人工的に再現することができれば、昆虫のように自由自在に環境中の匂いの世界を感じることができるに違いない。このような夢を描きながら、われわれは昆虫の嗅覚を活用したセンシング技術の開発を進めている。
これまでに、昆虫の嗅覚を活用することで、昆虫が異性交信に使う性フェロモンだけでなく、カビの匂いや花の香り、ヒトの体臭などさまざまな匂いを検出するセンシング技術の開発が可能となってきた。現在ではこれらの技術を活用して、現場でのカビ臭検査や混合臭の識別も可能となりつつある。将来、農作物や食品の品質管理から、害虫管理、人命救助にいたるさまざまな場面で昆虫の嗅覚を活用したセンシング技術の活躍が期待される。