地球存続の鍵を握る
バイオテクノロジー
-生き物たちの生存戦略に学ぶこれからの科学技術-
- < 3分でわかる解説 > 地球存続の鍵を握るバイオテクノロジー
- 地球温暖化や感染症など人類は今、地球規模の多くの課題に直面している。産業革命以降の革新的な科学技術の発展により豊かな社会が構築され私たちもその恩恵を受けてきたが、一方でこうした一連の課題は人類の活発な社会活動の弊害と言える。環境問題に関してはこれまで生命体ともいえる地球の自浄能力によって修復が図られてきたが、現在はその能力をはるかに超えている。この環境保全は微生物とその多様性に大きく依存しているが、地球上のさまざまな生命体は独自の代謝系を進化させて、それぞれの生存戦略に基づいて相互関係を築きながら棲息・繁栄をしている。
近年、ライフサイエンス研究の急速な進展により生命の神秘に関わる多くの発見やシステムの詳細が解明されてきたが、生命の厳密でありながら柔軟性のあるシステムに倣った革新的な技術が、バイオテクノロジーを超えて多くの分野で研究・開発・応用されている。人を含む地球上のさまざまな生物間コミュニケーションや相互作用を理解し、社会・経済システムに応用することは、理想的なバイオエコノミー社会の実現に大きく貢献するものと考えている。
筆者らは、微生物の機能を高度利用したモノづくり技術の開発研究を展開しているが、緻密で統制のとれた厳格な生命システムに魅了されることが多い。一方で、生物の生存戦略に基づく巧妙で柔軟性のあるシステムの一端を見出し、それをデザイン・活用することでこれまでにない拡張性の高い技術を開発することに成功している。本稿では、L-アミノ酸で形作られているこの地球上の生命システムにおいて、鏡像異性体であるD-アミノ酸の生存戦略上の必要性を明確にした上で、D-アミノ酸を含むペプチドの新たな酵素合成法の開発について紹介した。化学反応と酵素反応の長所を融合させたユニークな化学酵素的反応系の開発によってアミド結合形成を達成することができ、従来にはない光学活性を制御した任意のペプチド合成法の開発に成功した。さらに、環状ペプチドなど特殊構造を有するペプチドや多様なアミド化合物の合成を可能とするプロセスの開発にもつながった。
微生物の機能を利用するバイオテクノロジーは、多様な産業分野を開拓し、食品、医薬品、化成品、香粧品など多くの製品を創出してきたが、最先端ICTなどの情報工学やAIやロボットなどにおける技術革新を背景に、総合的な知の融合をさらに進めていくことで、地球温暖化を抑制しつつ、持続可能で豊かな社会の実現に貢献する新たなイノベーションが創出されるものと確信している。