HASEGAWA LETTER 2024 年( No.42 )/ 2024.03

THトピックス

新中国式のお茶文化と
人気の秘密 〜金駿眉紅茶フレーバーの開発・
高級茶葉の香り〜

長谷川香料(上海)有限公司
食品香料研究第一部 張 毅
営業企画部 謝 瀟瀟

中国の新しいお茶文化―新中国式茶飲

中国の茶文化は長く、伝統的なお茶を入れる習慣だけではありません。近年では、中国伝統文化と現代文化が融合した新しいカルチャーである「国潮(グオチャオ)」が新しい生活様式の代表となりました。このような背景から、中国の伝統茶文化と連携してお茶を飲む新しいスタイル「新中国式茶飲」の店が雨後のたけのこのように出店してきました。2022年の「新中国式茶飲」の市場規模は2938億5千万元になっています。「新中国式茶飲」に対する消費者の認知度が高まっていることや、茶葉のカテゴリーの革新が進んでいることなどから、消費者からのニーズも高まり、2025年の市場規模は3749億3千万元に達すると予測されています(中国データベース艾媒数据中心よりhttps://data.iimedia.cn/)。

中国の若者文化と新中国式の茶飲料

2015年は「新中国式茶飲」の元年でした。まず、「喜茶(シィーチャ)Heytea」という新茶飲店舗が、良質な茶葉と新鮮な牛乳を使ったチーズティーを開発し、新しい茶飲界を開拓して業界全体のレベルを上げました。また、同年に開業した中国の伝統的な特色をもつ茶飲店舗である「茶顔悦色(チャ・イエン・ユエ・セー)」は、その中国の伝統と風格をもった上品であっさりした味で、多くのファンを獲得し、中国伝統的な新茶飲の新しい世界を開拓しました。新中国式茶飲の成功は、若者の中国文化伝承へのニーズをくみ取ったこと、そして現代の流行と伝統文化をバランスよく融合させ、優れた審美眼で新しい価値観を生み出したことにあります。

左:新茶飲店舗「喜茶 Heytea」、右:チーズティー。ストローで飲むと、さっぱりした緑茶を最初に味わえて、次にチーズの濃厚な甘じょっぱい味。2層のおいしさを楽しめる。
左:新茶飲店舗「喜茶 Heytea」、右:チーズティー。ストローで飲むと、さっぱりした緑茶を最初に味わえて、次にチーズの濃厚な甘じょっぱい味。2層のおいしさを楽しめる。
茶飲店舗「茶顔悦色」
茶飲店舗「茶顔悦色」

今、中国の若者に最も好まれている生活スタイルは、街をぶらつくときや友人と集まるときに、気軽にミルクティーやフルーツティーを注文して歩きながら飲むことです。そのため、街道沿いやデパートには、若者に人気の新中国式茶飲店舗が続々と出店しています。人気の飲料を試すために、何時間も並んでいる人もいます。
ソーシャルメディアで最新のおいしい茶飲料を紹介することは、若い女性の最もファッショナブルなライフスタイルとなっています。

新中国式の茶飲料の人気の秘密

なぜ新中国式の茶飲料は若者に好まれて、人気が衰えないのでしょうか。その特徴は大きく3つあります。

●良質の茶葉でグレードアップ

一般的な茶葉を良質の茶葉で代替することで、異なる風味を楽しむことができます。
従来の店舗メニューには、「○○緑茶」「○○紅茶」などと明記されていました。新中国式茶飲の店では、具体的な茶類(茶葉の産地や特徴)を表示することが普通となっています。

●新鮮でおいしいフルーツティー

季節限定フルーツと上質なティーベースの出合いで、新鮮でおいしいフルーツティーの味わいを実現しています。
フルーツティーは、さっぱりとした健康的なイメージで若い人に人気があります。旬のフルーツとティーベースの組み合わせで、メニューがバラエティーに富んでいます。特にここ数年、「中国風フルーツ」の人気が高まっています。中国特有の果物の代表的なものは、柿、サンザシ、ヤマモモ、クワの実などがあります。
果物は、おいしいだけでなくフルーツの名前の発音が祝福を意味しているものもあります。例えば、「柿」と「事」は中国語の発音が一緒で「シィー」です。「事事如意(すべてが思いどおりにうまくいく)」という言葉を「柿柿如意(シィーシィールゥーイー)」と表したりします。それで柿も人気のフルーツの一つなのです。また、レトロなファッションをイメージした「サンザシ」や「クワの実」を組み合わせると、さっぱりとしたおいしさと健康的な味わいが生まれ消費者の心を捉えています。

●中国式の花とミルクティーの結合

中国の伝統的な優雅で上品なイメージは、消費者の心を動かします。
花は観賞価値が高いだけでなく、伝統的な中国料理でも使用されています。例えば、秋を代表する「モクセイ」の花の香りを楽しみながら食べることもあります。新中国式茶飲の中で、中国式の花とミルクティーの結合が誕生しました。夏を代表する「ハスの花」、そして上品で素朴な「竹」は、その上品な風味と、東方的な美学の高さで、そのおいしさを楽しみながら、心も癒やされます。

このような新中国式茶飲の流行の中で、どのようなお茶が消費者のニーズに応えられるのか、各ブランドメーカーは研究しています。フルーツティーや花のミルクティーと合わせる紅茶は、祁門(キーモン)、正山小種(ラプサンスーチョン)、大紅袍(ダイコウホウ)がメインですが、その中には、金駿眉(キンシュンビ)茶葉がおいしくて人気があります。しかし、金駿眉は高級で、一般的なミルクティーに使用するのは贅沢とされています。

高級茶葉―金駿眉紅茶とは

金駿眉紅茶とは、中国福建省武夷山市桐木村が原産の正山小種を基に、正山堂茶業が伝統的な製法と革新との融合により開発した新品種です。金駿眉の茶樹は葉が小さい小葉種で、正山小種が一芽一葉で摘むのに対し、金駿眉紅茶は芽頭(芽の先の細い部分)だけを摘み取ります。芽頭の生産量は限られているため、金駿眉紅茶は非常に高価なものなのです。その後、芽頭の水分を蒸発させる「萎凋(いちょう)」、茶葉をもむ「揉捻(じゅうねん)」などの工程を加えることにより、金駿眉の特徴的な甘い蜜のような香りになります。
中国茶には、「韻」と呼ばれる独特の風味をもつものがあります。それは、お茶を飲んだ後に感じる「余韻」のようなものと認識されています。金駿眉紅茶は、甘い蜜の香り、花の香りなどの「香韻」が生まれます。その特徴は、口の中に心地よい香りが広がり、すっきりとした味わいといわれています。

金駿眉紅茶フレーバーの開発

中国の若者に新しいお茶の楽しみ方が流行し、風味が多様化するにつれて、新しい商品を選ぶ消費者が増えています。茶飲料市場では金駿眉紅茶の需要が高まっていることから、当社は金駿眉紅茶フレーバーの開発を始めました。その中でも福建省の「武夷山金駿眉」の風味を目指しました。
まず、福建省産の金駿眉紅茶を選定し、詳細な香気分析を行いました。GC-MS分析機器を介して、香気成分359成分を検出しました。さらにGCスニッフィングにより、香気貢献度の高い重要成分を明らかにしました。開発した金駿眉紅茶フレーバーは、フレーバーティーや清涼飲料水、菓子など多岐にわたり使用されています。今後はより多くの風味を開発し、消費者のニーズを具現化し、満足いただける製品を提供できるよう努めていきたいと思います。

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正山小種(ラプサンスーチョン)
正山小種は明の末に生まれた世界の紅茶の始祖といわれている。「正山」は武夷山桐木周辺の同じ標高の地域を指す。「小種」は茶樹の品種が小葉種。正山小種は品質の特徴や加工工程の違いによって煙正山小種と正山小種に分けられている。

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正山堂茶業
正山小種紅茶の第24代伝承者である江元勛氏が、2002年に福建省武夷山国家自然保護区に設立した会社。400年余りの紅茶文化と製造技術を伝承し、勇敢に革新する精神を継承して、2005年高級紅茶である金駿眉を開発した。

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