HASEGAWA LETTER 2024 年( No.42 )/ 2024.03

OUR 技術レポート

発酵がもたらす香り ~微生物がつくる味噌のかぐわしい香気~

長谷川香料(株)総合研究所 小山彩香

温かい味噌汁を飲むとほっとする。味噌は、古くからわれわれ日本人の食生活に欠かせない食材である。塩味・うま味・甘味・酸味・苦味といった五味が調和した複雑な味と、特有の芳香をもつ味噌は、加熱調理によってさらに複雑な香りに変化する。まるで、香りの前駆物質の宝庫ともいうべき調味料である。今回は、発酵における微生物の働きに注目し、味噌の香りについて、ひもといていく。

  • 2024 年( No.42 )
  • OUR 技術レポート

戦国武将とともに発達した味噌

 味噌は、日本食には重要な存在である。和食において、貴重なタンパク質供給源の一つが味噌汁であった。その栄養価は、海外の研究者が分析して驚いたという逸話もあるほど高い。また、調味料として、嗜好品として、日本人には味噌に対する特別の思いが感じられる。
 現在の味噌の原形に近いものは平安時代から記述が見られるが、当時は食べ物につけたりなめたりして、そのまま食していた。贅沢品であったため、庶民の口に入ることはなかった。
 鎌倉時代に中国からやってきた僧によって、すり鉢がもち込まれたことから、それまで粒状の味噌だったものをすって味噌汁として利用されるようになった。「一汁一菜」という鎌倉武士の食事の基本が確立したのは、この頃である。
 一般に普及したのは、室町時代。農民たちも自家製の味噌をつくるようになり、保存食として庶民にも浸透。戦国時代に入ると、武将たちはこぞって味噌を仕込んでいた。植物性の食事が中心であったため、畑の肉とも呼ばれる大豆が原料の味噌は最適な兵糧だったのである。有名なものが、武田信玄が発明した「陣立味噌」という戦陣食である。

陣立味噌

 すり鉢ですった煮大豆と塩と米麴を丸めた味噌玉を携えて出陣し、振動によって発酵が促進され、陣笠を鍋代わりに味噌汁をつくり、戦地を生き抜いていた。ちなみに、今もつくり続けられている信州味噌は、武田信玄の陣立味噌が元になっている。

八丁味噌

 徳川家康ゆかりの三河(現在の岡崎市)は、米があまり採れない地域であることもあってか、豆味噌が盛んにつくられていた。豆味噌は原料のほとんどが大豆であるため、タンパク質含量も多く、牛肉に匹敵するスタミナ源として重宝したのだろう。豆味噌の中でもその名がよく知られた八丁味噌は、岡崎市の八帖町(旧八丁村)でつくられていることからその名がついている。

仙台味噌

 伊達政宗が仙台城内に「御塩噌蔵(おえんそぐら)」という味噌工場をつくり、生産を奨励した仙台味噌も、今もなおつくり続けられている。「八丁味噌」「白味噌」と並んで日本三大味噌の一つと呼ばれている(諸説あり)。

江戸時代から現代の味噌

 江戸時代に入ると、江戸の需要を江戸だけでは賄いきれず、各地でつくられた味噌が、送られてくるようになった。また、手前味噌を仕込む家庭も増えた。タンパク質供給源の意味合いが強かった味噌は、そのうち嗜好品の性格を強め、原料事情や気候風土を反映した各地方特有の味噌が発生し、今日の多様性を形づくっている。
 戦後は、より使いやすさを求めて容器も樽から袋詰め、さらにはカップに変わり、冷蔵庫に収納できるようになった。また、だしを取るひと手間を省ける「だし入り味噌」が登場し、より手軽に味噌汁をつくれるようになった。
 最近では、液状味噌や顆粒タイプの味噌など、溶けやすさに特化した製品や、お湯を注ぐだけで味噌汁ができる、具入りインスタント・フリーズドライといった簡便な製品が登場している。今後も時代の変化に合わせて多様な製品が求められてくるであろう。

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味噌の種類と特徴

 味噌とは、蒸煮(じょうしゃ)した大豆に、麴と塩を混ぜて発酵させた半固体状の食品のことである。味噌の種類は麴の種類によって、米味噌、麦味噌、豆味噌に大別される。
 米味噌や麦味噌は、それぞれ米や大麦に麴菌をつけて、醸された麴を、別途蒸煮した大豆と混ぜるのに対し、豆味噌は蒸煮した大豆に直接種麴をつけ、培養した後、塩水を加えて発酵熟成される。
 米・麦味噌は日本独自の製法であるが、豆味噌は朝鮮半島から伝わった製法がそのままに近い形で残っているのである。実際、韓国の味噌であるテンジャンは同様の製法でつくられている。
 現在の日本における味噌の出荷量を見てみると、そのうちの約8割が米味噌である(図1)。
 調合味噌とは、米味噌、麦味噌または豆味噌を3種もしくは2種調合したもの、あるいは米麴、麦麴または豆麴を混合したものを使用した味噌のことである。米・麦・豆味噌以外の味噌も調合味噌に含まれる。
 味噌は多種多様である(図2)。

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味噌づくりの過程と香気の変化

 味噌づくりの過程を追いつつ、大豆中の香気成分がどのように変化していくのかを見ていこう。
 完成した味噌には、200種類を超える香気成分の報告例がある2)。実際に味噌を嗅いでみると、フルーティーな香り、醬油様の香りなど、複雑な香りを実感できるだろう。
 一方で、原料である大豆や麴自体には、味噌を想起する特徴的な香気は感じられない。では、どの段階で味噌の香りは形成されていくのだろうか。

①大豆の水浸漬処理

 味噌づくりの最初は大豆を水に丸1日浸けるところから始まる。大豆は2~3倍の大きさに膨れ、水は泡立ちが見られる。この泡は、大豆のサポニンが水に溶けだしたものである。
 乾燥状態ではあまり香りのなかった大豆は、吸水すると金属臭、土っぽい香り、キノコっぽい香り、若干の青臭さや甘さなど、大豆の特徴的な香りが感じられるようになる。しかし、この段階では「おいしそう」とは程遠い香りである。試しに1粒かじってみると、強い青臭さ、しびれるようなえぐみがあり、しばらく舌に残った。

②大豆の蒸煮

 次に、火にかけてゆでる工程に入ると、メレンゲのような泡がモコモコと出てくる。これはポリフェノール類があくとして出てきたものであるが、味噌の風味にとってえぐみの原因となるため、丁寧に取り除かれる。
 指でつぶせるくらいに軟らかくなったら、蒸煮大豆の完成である。

 蒸煮大豆からは、煮豆様の甘い香りが強く感じられ、砂糖を加えて煮たかと思うほどである。実際に食してみても、ほんのり甘さがあり、おいしく感じる。
 煮る前と比較して、えぐみがなくなり甘さが増加した理由としては、先述のとおり、あくを取り除いたことももちろん、加熱によって起こった種々の反応によるところも大きい。
 甘い香りはサポニンが加熱分解して生成したmaltolや、メイラード反応によって生成した4-hydroxy-2,5-dimethyl-3(2H)-furanone、4-hydroxy-5-methyl-3(2H)-furanoneなどの香気成分と考えられる。甘い香気のほかには、わずかなキナコ様の香りも感じられる。キナコ様の香りの特徴に寄与する1成分として2,6-dimethoxyphenolが考えられる。

③発酵―大豆と麴の相互作用により生産される香気

 味噌の風味の差に影響を与える工程は、発酵熟成である。味噌は、麴菌・酵母・乳酸菌と、3つのカテゴリーの微生物が協働し、できあがる。それぞれの役割を見ていきたい。

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サポニン
植物の根・葉・茎に含まれる成分で、特にマメ科の植物に多く存在する。水に溶かすとせっけんのような安定した泡をつくり、天然の界面活性剤とも呼ばれる。大豆以外にも、高麗人参やゴボウなどにも多く含まれる。抗酸化作用やコレステロール低減など、適切な摂取で健康にも役立てられる。

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3つの微生物の協働―麴菌・酵母・乳酸菌

麴菌

 味噌の醸造工程で最初に活躍するのが、日本の国菌と呼ばれる「ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)」である。日本にしか生息せず、奈良時代から1300年もの間、活用され続けてきた麴菌である。世界一効率よく酵素を生産するのが特徴で、その酵素によって原料である大豆のタンパク質と米(麦)のデンプン、脂質をそれぞれ糖やアミノ酸、脂肪酸に分解し、それが酵母や乳酸菌の栄養源となり、発酵を促進する。発酵のスターターの役割を果たす、最重要な微生物である。

酵母

 ビールやパンの発酵でも活躍する酵母であるが、エタノールだけでなく、エステル類を中心とした香り成分を生成する。味噌の香りを握っているのは酵母なのである。
 味噌を仕込む桶によって、生息する酵母も異なる(蔵付き酵母と呼ばれる)ため、この酵母の違いが蔵ごとの個性的な風味を出すために重要な役割を果たしている。

乳酸菌

 ブドウ糖を乳酸に変えることで味噌を酸性に保ち、酵母が生育しやすい環境に整え、雑菌の繁殖も抑える。
 乳酸は風味にも貢献しており、独特の酸味がつくだけでなく、マスキング効果があるため、カドが取れたまとまりのある風味に仕上げてくれる役割もある。

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各種味噌の香気成分

 それぞれの微生物の役割を確認したところで、いよいよ各種味噌の発酵条件の違いが香気成分のバランスに与える影響を見ていこう。
 各種味噌のアロマプロファイルを作成した(図3)。アロマプロファイルとは、香りの特徴を視覚的に表現したものである。楕円の大きさはおおよその香気の量を表す。

辛口米味噌

 まずは、生産量が最も多い米味噌から取り上げる。米味噌には、特徴の大きく異なる辛口味噌と甘味噌がある。
 辛口味噌の発酵条件は、醸造期間が半年ほど、麴歩合が5~10ということである。
 辛口味噌の特徴香として、まず日本酒、ビールなどの醸造酒を想起するアルコール香や発酵香、それから中盤後半にかけて醬油様の甘さや塩味を想起する香りなどが挙げられる。
 まずトップノートについてだが、味噌の発酵中に増加する成分として、2-methyl-1-propanol、3-methyl-1-butanol(シャープなアルコール香)、2-phenyl-1-ethanol(バラ様の香り)をはじめとした脂肪族アルコール類がある。これらは多くの醸造食品に共通する発酵生産成分であり、酵母によって生産され、増加することが知られている。酒類の醸造でも多量に、生産されており、酒のような香りをもつ。最近では、品質保持のために酒精を添加した味噌も流通しているが、アルコール様の香りは、本来味噌から発生する香りである。
 吟醸酒のようなフルーティーな香りには、ethyl propanoate、ethyl 2-methylpropanoateなどのエチルエステル類が高い貢献度を示している。大豆由来の高級脂肪酸と、酵母が生産したエタノールとの反応によってエチルエステルが生成することが知られている。
 味噌の特徴的な醬油様の甘い香気に寄与している重要香気成分は4-hydroxy-5-ethyl-2-methyl-3(2H)-furanone(以下HEMF)である。この成分は発酵前の大豆や麴などの原材料からは検出されず、発酵の過程で、酵母の関与によって生成することがわかっている4)。類似の原材料と発酵プロセスを経る醬油からも見いだされている5)
 HEMFは、味噌に添加することで「味噌らしさ」や嗜好性が向上することが報告6)されているだけでなく、抗酸化力、腫瘍抑制作用など、その機能性も注目されている。
 醬油様のしょっぱさを想起させる香気成分としては、methionalやmethionolも重要である。これらはアミノ酸の一種であるメチオニンが酵母に代謝されて生成する7)

米甘味噌

 米甘味噌の特徴は、麴歩合が15~30と高いこと、醸造期間が5~20日と短いことである。いいかえると、麴菌が生産する酵素による分解が主要な反応で、酵母による発酵が起こる前に醸造期間が終了となる。
 そのため、デンプンやタンパク質の分解によってできた糖やアミノ酸が豊富に含まれ、甘さやうま味がよく感じられるものの、発酵工程のある辛口味噌に特徴的な醬油様の香りや、フルーティーな発酵香などが感じられない。そもそもの香気成分自体がかなり少ないタイプといえる。
 辛口味噌ではHEMFが味噌らしさを決定づける重要香気成分と述べたが、発酵工程を経ない白味噌ではHEMFも生成されない3)。白味噌を嗅いでみて、醬油様の香りが感じられないことからも、納得できるのではないだろうか。

麦味噌

 米味噌と比較して、麦味噌はより複雑なアロマプロファイルをしている。辛口米味噌と同様の香気成分に加え、ナッツ様の香りや燻煙臭が特徴である。米味噌との原料の違いとして、大麦を麴として使用しているため、大麦由来のリグニンが製麴中にフェノールカルボン酸に変化し、酵母の働きにより独特の燻煙臭をもつフェノール類である4-ethylguaiacolや4-ethylphenolを生成すると推定されている3)

豆味噌

 豆味噌の原料の特徴は、米や麦などデンプンを主体とする原料を含まないことである。そのため、糖を栄養源とする酵母による発酵が働きにくい。豆味噌の醸造期間が最長20カ月と長いのは、栄養源として糖が存在する環境に比べ、緩やかに発酵が進むからなのである。
 また、糖が少ないということは、アミノ酸が多いと捉えることもできる。そのため、豆味噌には長期にわたって熟成される過程でアミノ酸が分解され、生成する香気成分が特徴的である。
 まず、豆味噌特有の香気特性として麦芽様の香気を示す2-methylbutanal、3-methylbutanalは、それぞれイソロイシン、ロイシンのストレッカー分解により生成したと考えられる8)
 興味深いことに、豆味噌には麦味噌と共通した香気の特徴がある。その一つが、燻煙臭をもつことである。麦味噌の場合は、大麦のリグニンが酵母に代謝されてフェノール類が生成することに起因していたが、同じフェノール類が、豆味噌からも見いだされているのである。
 これらフェノール類は、大豆にも含まれるリグニンが酵母に代謝されて生成すると考えられている。大豆はどの味噌にも共通して含まれているのに、なぜ豆味噌のみから検出されるのだろうか? それは、豆味噌の発酵期間が長期にわたるからだと推測される。
 ほかにも、あらゆる反応が起こり、それぞれの味噌の個性を彩っているが、麴の種類と醸造期間が風味を決める重要な条件であることは間違いない。また、個性のある味噌をブレンドすることで、お互いの良さを引き立てあったり、補完しあったり、うま味やコクが増したりと、味噌の可能性は無限大である。

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麴歩合
大豆に対して麴(米麴や麦麴など)の割合を計算したもの。
麴歩合=麴÷大豆(蒸煮前)×10
例えば米麴の量と大豆の量が同じ場合、麴歩合は10となる。

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トップノート
口に入れる前の香り立ちや口に入れた瞬間に感じる軽い香りを指す。一般的に、分子量が小さく、揮発性が高い香気成分がトップノートに寄与する。

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酒精
味噌は容器詰めされてからも、酵母が生きているため発酵が進み、風味が変化すると同時に、二酸化炭素を生成して容器を膨張させる。それを防ぐため、味噌に添加される食品添加物としてのアルコールのことを酒精と呼ぶ。

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高級脂肪酸
脂肪酸の中に「低級脂肪酸」と「高級脂肪酸」がある。炭素数6(C-6)以上のものを高級脂肪酸という。

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ストレッカー分解
メイラード反応(加熱により糖とアミノ酸などの間で褐色物質などができる反応)の副反応として起こる。α-ジカルボニル化合物とα-アミノ酸が反応し、アルデヒドやピラジンを生成する反応のこと。

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海外での味噌人気

 2013年に和食がユネスコ無形文化遺産に登録されてから、その健康効果にもさらに注目が集まっている。味噌の輸出量は増加しており、今後も海外での人気は発展していくことが期待される。
 日本の味噌の風味に関して、海外の消費者はどのような感想をもつか、当社の海外拠点(USA、中国、マレーシア)の従業員にヒアリングした。食経験としては、日本食レストランで味噌汁として味わうことにならび、味噌ラーメンのスープとしてもなじみがあるとの回答が得られた。中国や韓国の味噌に比べ、日本の味噌はマイルドな風味と捉えられており、うま味を足したり全体を底上げしたりするような使い方をしている人もいるようだ。
 とはいえ、そもそも味噌を知らない層も、まだまだ多いのが実情である。味噌を知っている消費者の感想としては、特徴のある風味ではないからか、独特の発酵感が気になるとの声があるものの、極端にネガティブな印象をもつ人はほとんどいないようであった。海外の消費者からも嫌われにくい風味特徴をもつ味噌は、今後認知が進むことで消費量の増加が期待できるのではないだろうか。
 味噌の輸出拡大のために、味噌メーカーは各社工夫を凝らしており、海外ニーズに合わせてオーガニック味噌、ソイフリー味噌(エンドウ豆が主原料)、ハラル認証取得味噌などを開発している。また、形態も液状、粉末など使いやすさを追求した開発も進んでいるようだ。
 また、代替肉トレンドの発展に伴い、世界的に大豆自体の需要も増加しているため、今後大豆や味噌の原料調達・品質が不安定になったり、価格が上昇したりすることが予想される。原料コストを抑え、品質を安定化することは、より高品質な製品を消費者に提供するためには無視できない課題である。

左上:ベルリンのスーパーの有機白味噌、右上:デュッセルドルフのスーパーの白味噌、麦味噌、左下:プラハのスーパーのワカメ入り即席味噌汁、右下:ロンドンのスーパーの麦味噌

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味噌の香りを届ける代替素材

 味噌の香りは加工工程で揮散しやすく、特に粉末化の工程でトップノートの揮散が顕著である。その香りを補正することでより高品質な製品開発が可能になる。
 当社では、粉末製品に使用しやすい粉末製剤の「ReplaTH®ミソ」を開発した。賦形剤にトレハロースを使用することで、保留性・安定性が高く、失われがちなトップノートを長期間保つ効果がある、当社粉末化製剤化技術のハセロック®を応用している。
 一般的な味噌粉末に対して約20分の1の割合で代替可能な香りの強さを有するため、味噌の使用量を減らすことが可能になり、コストダウンを図ることができる。また、香料原料として味噌を使用していないため、味噌の価格高騰の際にも安定した価格で、安定した品質の提供が可能である。
 味噌をはじめ、醬油、動物・植物性原料などは価格上昇傾向にあり、将来的に逼迫の可能性もある。このような事態に素早く対応できるように「ReplaTH®」をシリーズ化している。
 さらに、消費者の嗜好性や市場は絶えず変化しており、それに伴った食品メーカーのニーズも変化していくだろう。当社は調香・分析・合成の高い技術力を駆使し、さまざまなニーズに対して常に高品質で魅力的な素材を提供できるよう努めている。

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参考文献

  • 1)川村渉,辰巳浜子.みその本.柴田書店,1972.
  • 2)本間信夫.味噌の香気と香気成分について(その2).日本釀造協會雜誌.1987, vol. 82, no. 8, p. 547-553.
  • 3)菅原悦子,米倉裕一.各種味噌の香気成分組成の比較.日本食品科学工学会誌.1998, vol. 45, no. 5, p. 323-329.
  • 4)Sugawara, E.; Saiga, S.; Kobayashi, A. Multiple regression analysis of aroma components and sensory evaluation of miso. Nippon Shokuhin Kogyo Gakkaishi. 1994, vol. 41, no. 11, p. 844-846.
  • 5)横塚保,佐々木正興,布村伸武,浅尾保夫.醬油の香り(1).日本釀造協會雜誌.1980, vol. 75, no. 6, p. 516-522, 457.
  • 6)菅原悦子.みそ香気成分としてのHEMF (4-Hydoxy-2 (or 5)-ethyl-5 (or 2)-methyl-3 (2H)-furanone)の単離.日本食品工業学会誌.1991, vol. 38, no. 6, p. 491-493.
  • 7)佐々木正興,森修三.醬油の香り.日本醸造協会誌.1991, vol. 86, no. 12, p. 913-922.  
  • 8)井上裕,渡辺寛人,早瀬文孝.豆味噌の加熱香気がこくに与える影響.日本醸造協会誌.2018, vol. 113, no. 1, p. 9-17.

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