HASEGAWA LETTER 2022 年( No.40 )/ 2022.01
社会の中の香り
サステナブルで香り豊かな社会を⽬指す 〜⾹料業界のSDGs への取り組み~
2020 年7月1日、IFRA(国際⾹粧品⾹料協会)およびIOFI(国際⾷品⾹料⼯業協会)は、より持続可能な未来を約束するサステナビリティ憲章を発表した。⽇本からは32社(2021年9 ⽉28 ⽇時点)が署名、参加を表明している。この憲章は、国連の持続可能な開発⽬標(SDGs)を念頭に、2016年から検討を重ね公表に⾄ったもので、⾹料各企業のための⾃発的な枠組みとなる。憲章の詳細と⾹料業界が⽬指すSDGs のあり⽅について紹介する。
世界の香料業界とSDGs
2015年9月、国連サミットで持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)が採択され、2030年までに世界が達成すべき17の目標、169のターゲットが掲げられた。SDGsという言葉は一般社会の中にも広く浸透しており、プラスチックゴミの削減に向けたレジ袋の有料化とマイバッグの使用は「海の豊かさを守ろう」、フードロスで問題になっている「飢餓をゼロに」など身近な目標として挙げられている。各産業界においてもSDGs達成に向けた活動が盛んに行われている。企業においては持続可能なビジネス活動を目指すことは、長期的な経済においても意義があることがますます明らかになってきている。香料業界にとって、限りある資源の使用を減らす、再生可能な資源を慎重に管理する、責任ある雇用慣行、最先端の安全性基準の推進、香料を使用する得意先企業(ユーザー)や、消費者などのステークホルダーとの関係構築にせよ、持続可能な取り組みが原料調達から最終製品に至るまでのあらゆる段階(バリューチェーン)において役立つといえる。
このような背景から、香粧品香料の国際団体IFRA(The International Fragrance Association:国際香粧品香料協会)と食品香料の国際団体IOFI(The International Organization of the Flavor Industry:国際食品香料工業協会)は2020年7月1日、持続可能な未来を約束するサステナビリティ憲章を共同で発表した(https://ifra-iofi.org/)。世界の香料業界にとってSDGs達成への大きな一歩となった。サステナビリティ憲章には世界の香料関連企業129社、日本香料工業会からは32社(2021年9月28日時点)が署名、参加を表明している。
*IFRA、IOFI、日本香料工業会の紹介は「付録」を参照。
サステナビリティ憲章採択に至るまでの経緯
2015年に国連のSDGsがスタートしたのを契機に、香料業界としても持続可能性に向けた責任ある取り組みによって、バリューチェーン全体で貢献できるサステナビリティ憲章(以下、憲章)を策定しようと、IFRAと IOFIの理事会で決定された。2016年にキックオフミーティングが開催され、現状把握のためのワークショップや、香料にふさわしい憲章を制定するために、目的や課題が議論された。翌年2017年に、実際にサステナビリティ憲章をつくるための「サステナビリティ・タスクフォース」が発足。取り組みの重点分野(後述)を絞り込み、実行可能かどうかの「リアリティチェック」を行い、業界内外の関係者からの助言に基づき、重点分野に具体的に取り組むための公約として、業界の中で決めたコミットメントを全部で17策定(後述)する作業が行われた。 2019年には、トライアル的に各社の取り組みの成熟度を調査するための業界アンケートを実施。法的チェックを行い、検討開始から4年間のプロセスを経た後、2020年7月に憲章公表となった。憲章は英語のほか、スペイン語、ポルトガル語、日本語、中国語でも閲覧可能である (https://ifra-iofi.org/key-documents) 。
日本香料工業会では、環境規制や人事労務、男女雇用機会均等、法律で定められている義務については、どの企業でも行われているわけであるが、従来から会員各社が取り組んでいるCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)活動の延長として考え、できるところから始めることの重要性、業界全体で毎年少しずつの進歩と意欲をもって続けていくことに意義があると説明し、憲章への賛同の趣旨を理解していただいた。また、憲章の具体的内容や、トライアル的に行われた業界アンケートの質問内容、回答例など、日本語訳による資料を作成した。さらに東京と大阪で説明会を開催し、日本香料工業会として会員企業が参画しやすい環境を整えた。
憲章の位置づけ、憲章が目指すもの
- ●憲章の位置づけ
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憲章は香料業界の企業のための自主的な枠組みである。IFRAと IOFIは、その位置づけとして、憲章を支える4つの原則を挙げている(図1)。
- ①自主的かつ包括的
- ②補完的取り組み
- ③意欲をもって達成可能
- ④独占禁止法準拠
各社がすでに行っている取り組みを憲章により補うことが可能である。強制的なやり⽅を取らず、各企業の事業活動の規模や範囲に合わせて、できることから取り組める枠組みである。個々の企業が少しずつでも向上を目指すことにより、結果として業界全体が大きな推進力をもち、ともにSDGs達成に向けて前進できるよう支援する位置づけである。
- ●憲章が目指すもの
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憲章を通じて目指すものとして、IFRA とIOFIは、5つの目標を掲げている(図2)。
- ①香料産業全体で持続可能性に対する認識の向上に努める。
- ②会員企業に対し、優良事例、法的/規制の枠組み、持続可能性プログラムの内容、国際的な開示基準要件など、取り組みを継続し水準を上げていくために役立つ情報(「ツールボックス」)を提供する。
- ③取り組みの進捗状況を年次報告書として発表する。
- ④ステークホルダーとの信頼関係を構築し、対話を強化する。
- ⑤ステークホルダーとの情報・意見交換を通じて香料業界内外で協力する機会(「コラボレーション」)を見いだす。
参加企業の支援、業界として計画を発表する、進捗の報告をするだけでなく、原料生産者、ユーザー、行政、消費者やメディアなど、業界外の幅広いステークホルダーからの意見に耳を傾け、社会の業界に対する期待を理解する。そして共通の関心分野でともに取り組む機会を見いだすことを目指している。
SDGsに基づいた憲章の具体的内容
香料は、天然・合成原料などさまざまな素材を使用し、多品種少量生産、用途が多様であるという特殊性からバリューチェーン全体で持続可能性に深く関わり合いがある。「憲章」は、「ライフサイクル・アプローチ」を採用し、国連の「持続可能な開発目標=SDGs」に基づいた5つの重点分野として、「責任ある調達」「環境フットプリント削減」「従業員の福利向上」「製品の安全性」「透明性とパートナーシップ」で構成され、具体的な取り組みとして17のコミットメントが設定されている(図3)。これら重点分野は全体としてリンクしており、バリューチェーンの川上から川下までつながりをもって機能する。
- ●重点分野1.責任ある調達
- 責任ある調達とは、バリューチェーン全体において責任ある調達を確実にすることである。単に原料を調達するだけではなく、調達先の人々、コミュニティ、そして地域の環境を支援することでもある。特に天然原料の産地は発展途上国や、気候変動の影響を受けやすい地域である場合が多く、人権や労働基準を尊重し、生産者の暮らしや地域社会の経済的繁栄にも支援や配慮が必要である。また、天然資源の利用という点では生態系の保護と再生が不可欠であり、持続可能な調達を実行するための取り組み体制構築は、コミュニティに関与する機会でもある。
- ●重点分野2.環境フットプリント削減
- 香料業界は、製造施設の環境への影響を制限し、環境関連規則を順守するための投資を含む実践的な対策を伴った循環型経済アプローチに基づき取り組んでいる。廃棄物の削減と再資源化、水の利用削減、省エネの推進はもとより、将来の資源の利用可能性を確保するために、われわれ業界で使用される原材料が天然または合成を問わず効率的に使用されるようにしなければならない。合成原料を使用した製造が天然原料の使用よりもよりサステナブルになり得ることを認識しつつ、ケース・バイ・ケースで天然、合成それぞれについて、持続可能性プロファイルを検討しながら、天然原料と合成原料両者の持続可能性と製造過程における化石燃料などの使用による温室効果ガス排出量、すなわち「環境フットプリント」を考慮する必要がある。さらにまた、グリーンケミストリーの原則、すなわち有害物質の使用または生成を削減または排除する製品設計に向けた取り組みも重要である。
- ●重点分野3.従業員の福利向上
- 職場の安全は最優先事項である。香料業界で扱う香料素材には化学物質も含まれることから、これらを毎日使用している従業員への曝露を管理しリスクを最小限に抑える、ほかの産業界にも共通する製造現場における職業上のリスク、心の健康管理への対処も必要である。
さらに従業員の機会均等と公正な待遇、才能を完全かつ持続的に発揮でき、多様性を受け入れ、違いが尊重されるよう、香料業界はすべての人にとってやりがいのある職場となるようにしたいと考えている。トレーニングプログラムは、従業員と雇用者の両方に利益をもたらす自己啓発をサポートする上で非常に重要である。
- ●重点分野4.製品の安全性
- 適正な製造工程は、安心で信頼できる製品開発の出発点である。質の高い工程と製品は、消費者の満足度と保護に関してだけでなく、企業にとって長期にわたり経済的節約と競争力の高い優位性という観点から見ても重要である。憲章はさらにまた、「設計による安全」を推進している。これは、企業が製品ライフサイクルの主要な段階を見直し、リスクを管理し、人の健康と環境の保護に関する顧客と消費者の期待に応え、適切な人々が適切なタイミングで適切な情報を確実に入手できるようにするシステムを構築することを意味する。IFRAとIOFIは、製品の安全性、使用する原料素材、製造などについて、ユーザーに安全に使用していただける香料製品を提供するために、香料業界が必ず守るべきものとして、科学的見地に基づいた香料産業界の実施規範、すなわち “Code of Practice”をそれぞれ策定している。本規範は一般にも公開されている。
IFRA Code of Practice (https://ifrafragrance.org/about-ifra/ifra-code-of-practice)
IOFI Code of Practice (https://iofi.org/resources/general-resources)
- ●重点分野5.透明性とパートナーシップ
- 企業倫理は、企業が公正かつ透明な意思決定を行い、非倫理的なビジネス慣行や産業慣行に関連するリスクを防止する。企業は戦略を立て、結果の分析とフォローアップを可能にする指標を策定し、必要に応じて新たな方向性を定めなければならない。報告はそれ自体が目的ではないが、これらの指標は、継続的改善のためのツールと見なされなければならない。対外的には、これら指標を公表することにより、企業活動に対する信頼性を強化し、模範を示すことができる。外部のさまざまな関係者との対話を構築することは、企業のビジネスを理解し、改善に資する環境づくりに役立つ。
IFRAとIOFIは、独占禁止法のコンプライアンス基本方針に沿ってすべての活動を行っている。また、透明性に関して、規制機関、業界パートナーに対して、主要な技術的および科学的情報を提供し、ほかの業界とともに共通の関心分野において対応できるよう、バリューチェーンにおけるステークホルダーとの対話とコラボレーションを強化している。
IFRAとIOFIの主な活動(憲章発表後)
2020年7月1日に憲章を一般公開後、IFRAとIOFIは業界内外に対する情報発信、外部団体との協働など多岐にわたり活動を継続しており、世界環境デーに合わせ、2021年6月5日には、香料産業界による初のサステナビリティ報告書を発表した。以下はその活動概要である。
- ●憲章ウェブサイト上で“ツールボックス”(Toolbox)を提供
- ツールボックスとは、業界全体で取り組みの水準を向上させることを目的とした、署名企業向けの参考情報集である。憲章に概説されているコミットメントを実施するにあたり、参考となる優良事例、法的枠組み、持続可能性に関するガイダンスプログラム、国際的開示基準などがオンラインで利用可能。
(https://ifra-iofi.org/toolbox)
- ●サステナビリティコミュニティ発足
- サステナビリティコミュニティとは、署名企業や、各国加盟協会を対象に外部の講演者を招待したウェブセミナーや意見交換が行われるオンラインによる集いの場である。以下のテーマで開催された。
- ・2020年9月 Rethink Economics: Give Value to Nature
生物多様性の損失、気候変動、世界的なパンデミック、経済の縮小など、「社会問題を解決する上での業界の役割とは何か?」について元欧州議会議員であるAnders Wijkman氏による講演会。 - ・2020年12月 Toolbox の紹介
- ・2021年3月 Green Chemistry
化学者、発明家、教育者、起業家であり、グリーンケミストリーの分野の創設者の一人でもあるJohn Warner博士による講演会。 - ・2021年6月 IFRA-IOFIサステナビリティ報告書の概要
- ・2020年9月 Rethink Economics: Give Value to Nature
- ●オンラインイベントへの参加、プレゼンテーション実施による啓蒙
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- ・European SDGs Summit (2020年10月)
- ・Global Fragrance Summit (2021年3月)
- ・ifia Japan (International Food Ingredients & Additives Exhibition & Conference)(2021年5月)
5月12日、パシフィコ横浜において開催された「第26回 ifia Japan 2021」
(食品化学新聞社主催)において、IOFIによる基調講演「香料産業のサステナビリティ憲章」が行われた。日本香料工業会ブースでは、サステナビリティ憲章のポスターを掲示した。
- ●外部団体とのパートナーシップによる協働
- 責任ある調達、特に天然原料の調達に関連した外部団体との協働の一つの事例として、UEBT(Union for Ethical Biotrade、倫理的バイオトレード連合)との覚書に署名し、南アフリカでドイツの国際協力公社(GIZ)とともに、香料に使用される天然原料の一つであるBuchu(南アフリカの自生植物)の栽培と加工に関する持続可能性活動に取り組んでいる。生物多様性の保全と持続可能な利用に貢献する欧州―アフリカのビジネスパートナーシップの一環で、名古屋議定書の順守に関連した協会の従来の取り組みを補完するものである。
- ●IFRA-IOFI Sustainability Report 2020-2021 発行(2021年6月5日)
- IFRAとIOFIは、2021年6月5日(世界環境デー)に合わせ、香料産業界による初のサステナビリティ報告書を発表した。この報告書は、憲章を構成する5つの重点分野における取り組みの現状を、憲章に署名した企業を対象に、2020年に実施したアンケート調査の結果を概説している。
アンケート結果の要約は以下のとおり(F&F: Fragrance & Flavor、香粧品香料&食品香料)。- 【総 括】
-
- ・5つの重点分野にわたり高いレベルの「成熟度」を示している。
- ・回答企業の3分の2以上が、5つの重点分野に関して持続可能性の課題に対処するための戦略をすでに実施している、あるいは計画中である。
- 【責任ある調達】
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- ・意識と積極的な関与が高く、回答企業の70%以上、およびF&F市場の大半が、農家やコミュニティとの対話に参加し、公平な慣行、コミュニティの発展、教育を支援している。
- ・F&F市場の大半が人権、労働基準に関する高度なロードマップ、さらに生物多様性に関する行動計画をもっている。
- 【環境フットプリント】
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- ・F&F 業界の環境フットプリントは比較的小さく、回答企業の4分の3がF&F市場の90% 以上を占めており、グローバルな環境戦略をもち、エコデザイン対策を実施し、消費と廃棄物の削減に取り組んでいる。
- ・グリーンケミストリーの原則に対する理解は高く、今後さらに成長する可能性がある。
- 【従業員の福利向上】
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- ・F&F業界は、従業員の福利厚生に関して高い水準を示しており、機会均等、多様な人材の活用、トレーニングなど、やりがいのある労働環境を提供している。
- 【製品の安全性】
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- ・F&F 業界は、製品の安全性について最先端を担っており、回答企業の90% 以上が化学物質の総合安全管理について川下顧客との対話に取り組んでいる。
- ・4 分の1以上が積極的な方法で教育支援を提供している。
- 【透明性とパートナーシップ】
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- ・回答企業の4分の3以上に、大手企業が含まれており、グローバルに対応するガバナンス戦略を実施している。
- ・5分の3以上が、法的要件よりも厳しい汚職防止対策を採用し、3分の2が進行中の政策対話に参加している。
本報告書の結果は将来の報告書の基準値となり、進捗状況の確認が可能になる。IFRAとIOFIは、今後も引き続き憲章の理解・認識を深め、安全で持続可能な製品設計のために努めていくとしている。
報告書は、フルバージョン・ショートバージョンがダウンロード可能(https://ifra-iofi.org/report)。
さらなるSDGs促進に向かう香料業界
- ●サステナビリティ委員会設立
- IFRAとIOFIは、適切なガバナンスにより、活動を継続的に進化、推進するために、加盟会員企業、協会からのエキスパートにより構成されたサステナビリティ委員会を新たに設置した。今後、この委員会を通じて規制も含めたサステナビリティ関連動向のモニタリング、新たな課題の特定、外部ステークホルダーとの協働の機会提案、一貫した業界メッセージ発信などが期待される。
- ●天然原料の責任ある調達プロジェクト
- 憲章の重点分野の一つ「責任ある調達」の一環として、サプライチェーン全体で天然原料の責任ある調達に取り組む必要がある。香料業界に特化したシステムを外部団体との協働で構築するプロジェクトが、サステナビリティ委員会を中心に具体化が進められていく予定。
- ●「欧州グリーンディール」と「持続可能性のための化学品戦略」への対応
- 「欧州グリーンディール」とは、欧州委員会(EUにおける行政執行機関)が、2019年12月に発表した気候変動対策で、環境配慮と経済成長の両立を目指している。その政策の一環として欧州委員会より「持続可能性のための化学品戦略」が2020年11月24日に公表された。現在状況を把握しつつ業界として対応する準備が進められている。
社会的状況の変化とSDGsへの取り組みの重要性
コロナ禍によって、社会、経済が多岐にわたり影響を受けている。人々は生活のあり方、消費、働き方を見直し始めた。香料業界の憲章策定は、2016年から作業が進められていたが、取り組みに対する意識がよりいっそう高まった。例えば、原料調達先の生産者や、ユーザーが困難に直面している場合、それはわれわれ香料業界も同時に影響を受けていると考え、解決策を見つけるために、ともに考え対応していかなければならない。このような状況においては、持続可能性がさらに重要になる。パンデミックが始まり、2020年の憲章発足と、2021年の初のサステナビリティ報告書公表は、偶然のタイミングであった。
現在多くの国でワクチン接種が普及し、物事がある程度正常に戻りつつあるが、憲章は、無視することのできない政治的、経済的、社会的状況の変化の中に位置づけられており、持続可能性への取り組みの重要性がより明確になったといえる。
今回公表されたサステナビリティ報告書の中では、地域別署名企業数が欧州全体の次に日本が多く、世界に日本香料工業会としてSDGs達成に向けた姿勢が示されたことは意義がある。憲章発足当初に日本香料工業会が行った会員企業のサポートにより、各社が意欲的に取り組んでいる。今後、IFRAとIOFIの支援のもと、世界各地域の協会内での認識の共有と推進力が求められる。
香料業界は、生活必需品の原材料として幅広く香料製品を供給する必要不可欠な業種である。これからもユーザーや消費者のニーズに応え、安心安全な製品を通じてさまざまな社会課題に貢献していく中で、SDGsに取り組む意欲と姿勢がステークホルダーの方々にも見えるようになること、さらに、広い意味での関係者間(原料生産者、ユーザー、行政、消費者、メディアなど)のコミュニケーションの継続がよりいっそう重要になってくる。業界内の目標達成にとどまらず、業界外との「コラボレーション」が可能な部分が出てくるであろう。今後報告書の発行を積み重ねていく中で、その機会を探りともにSDGsの目標達成に向けて歩んでいきたい。
付録:香料業界団体の紹介
- ●IFRA (The International Fragrance Association)
- 1973年に設立されたIFRA(国際香粧品香料協会)は、香粧品香料業界全体の利益を代表する国際的組織である。現在7社の多国籍企業、世界の4地域(欧州、北米、中南米、アジア太平洋)に所属する21カ国の協会、および賛助会員で構成されている。世界中で誰もが楽しめる香りの安全な使用を促進することを使命としている。香粧品香料はファインフレグランス、化粧品などのパーソナルケア製品、ホームケア製品などに使用されているが、IFRAは、香粧品香料の製造や取り扱いに関する最優良作業基準として実施要綱(Code of Practice)を策定し、安全な使用を管理するシステムとして、RIFM(The Research Institute for Fragrance Materials:香粧品香料原料安全性研究所)による科学的なリスク評価に基づきIFRAスタンダードを作成、各香料素材の使用に関する規制内容を規定している。IFRAスタンダードは世界中の政府当局や業界団体によって認められており、IFRAの会員企業は、実施要綱、およびIFRAスタンダードの順守が義務づけられている。
(https://ifrafragrance.org/)
- ●IOFI (The International Organization of the Flavor Industry)
- 1969年に設立されたIOFI(国際食品香料工業協会)は、世界中で食品香料を開発、製造、販売する業界を代表する国際的協会である。現在17の国・地域の協会と11社のグローバルに活動する企業で構成されており、環境に配慮し、消費者の生活を豊かにするために、責任をもって製造された安全な食品香料の国際貿易を推進することを使命としている。食品香料は、飲料や菓子などの加工食品に香りや風味をつけるために使用され、主として果物や野菜など自然界にある食べ物の香りを再現したものである。IOFIでは、科学および香料規制を専門とするスタッフらが、会員企業や各国協会からのボランティアによるネットワークを通じ、世界中のステークホルダーと連携し、協働している。IOFIの活動の推進力の中心は科学であり、食品香料原料の安全な使用をグローバルレベルで確実にするために、国際的に認められた安全性評価機関(例:国連FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)など)に協力し、健全な科学データに関する要求事項に的確に対応している。また、IOFIは、国連FAO/WHOコーデックス委員会(国際食品規格の策定などを行う国際的な政府機関)の公式オブザーバーでもあり、公衆衛生に貢献し、食品香料規制の国際整合を促進するグローバルスタンダードやガイドラインの促進に向けてコーデックスでの議論にも参加している。(https://iofi.org/)
- ●日本香料工業会
- 日本香料工業会は1970年に設立された非営利の業界団体で、香料を製造、販売、輸出入などを行っている企業が属している(2021年8月31日現在会員数124社)。香料産業の発展に必要な事業を推進し、香料の有用性・安全性等に関する情報の入手および普及に努めることをその活動目的とし、主な事業活動は、業界の公正な意見を取りまとめ、関係諸機関との折衝、会員への情報などの伝達、各専門の各委員会活動(図4)を通じた情報の収集および関係資料の作成のほか、その活動は国内のみを対象にするのではなく、国際的な問題にも関わりがあることから、IFRAとIOFIに加盟し、国際的な香料産業組織の一員としての活動も行っている。
(https://www.jffma-jp.org/)
参考資料
- ・IFRAウェブサイト(https://ifrafragrance.org/)
- ・IOFIウェブサイト(https://iofi.org/)
- ・IFRA-IOFI サステナビリティ憲章ウェブサイト(https://ifra-iofi.org/)
- ・IFRA-IOFIサステナビリティレポート2020-2021(https://ifra-iofi.org/report)
- ・月間フードケミカル 2020年11月号(食品化学新聞社)
- ・月間フードケミカル 2021年1月号(食品化学新聞社)
- 大木 嘉子 おおき よしこ
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日本香料工業会IOFI特命委員
長谷川香料(株)品質保証部
社内における品質保証関連業務の一方、日本香料工業会IOFI特命委員、食品香料委員会委員のほか、日本食品添加物協会などの業界団体委員を担当。香料に関する国内、国際活動に携わる。
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