HASEGAWA LETTER 2026年( No.44 )/ 2026.07

カオリ to ミライ

香りと言葉とAI ~AIは香りを理解するか?~

関西学院大学副学長・工学部情報工学課程教授 
巳波弘佳

人類史上初めて、人類以外で、人類と自然に会話できる存在が現れました。それはAI(人工知能)です。今ではAIに欲しい香りのイメージを伝えるだけで、それに合った香りを選んでくれるようになりました。これを実現するために重要な鍵となったのは「言葉」。言葉を媒介として、香りとAIはつながります。言葉と思考、言葉を超えた先にあるものと香り、そして人とAIと香りの未来について、考えを巡らせてみました。

  • 2026年( No.44 )
  • カオリ to ミライ

語り始めたAI

 「スミレやラズベリー、紅茶やスパイスの香り」、「あんずや梅のような酸味のある果実の華やかな香り」という表現を目にすると、コーヒーやワインの香りがありありと思い起こされます。私たちは言葉から香りを想起できます。香りを言葉でいかに伝えるか、人類は長い歴史の中で多くの表現を生み出してきました。
 さて、近年のAI(Artificial Intelligence、人工知能)技術の発達は著しく、特に生成AIの登場は世界を大きく変えたと言っても過言ではありません。生成AIとは、指示に応じてテキスト・画像・動画・音声・プログラムなどのさまざまなコンテンツを生成する技術の総称です。特に自然言語処理の分野でブレイクスルーを引き起こした技術が、大規模言語モデル(Large Language Model;LLM)と呼ばれるものです。これによって、高度な言語処理が可能となりました。文章の作成、翻訳、人との会話など、人間が自然言語を用いて行っていることが、AIでもできるようになったのです。

大規模言語モデル

 大規模言語モデルは、膨大なテキストデータと深層学習などを用いて構築された技術です。データから傾向を統計的に学習し、次に出現する単語を高い確率で推定できるように訓練されます。学習や訓練というのは、膨大な個数のパラメータの値を調整することです。文法などさまざまな規則が明示的に与えられなくても、学習によってパラメータの値が定まった結果、規則そのものは具体的に示せないものの、あたかも規則に従っているかのように文章を生成できます。
 なお、哲学者・言語学者のノーム・チョムスキーは、大規模言語モデルは言語の本質である規則性や論理に基づいておらず、言語を模倣しているにすぎないとみなしています。チョムスキーの生成文法理論は、1950年代から言語学の中心的なパラダイムであり、人間の生得的な普遍文法というものに基づいて言語を説明しようとするものです。生成文法はトップダウン的に言語構造を規定するものである一方、大規模言語モデルはボトムアップ的に膨大なテキストデータから帰納的に学習するものであり、根本的に異なるアプローチです。言語とは何かという哲学な問いとも関係しています。

人間と会話するAIが身近に

 実用主義的な観点からは、「使える」・「役に立つ」のであれば、言語か否かどちらでも構わないでしょう。大規模言語モデルで生成される文章は、たとえ言語とは言えないとしても、既に驚くほど自然に文章を生成しており、AIが書いたものか人間が書いたものか、今や人間にすらほとんど区別できません。また、人間と自然に対話できることを活かしたAIチャットボットは既に実用化され、人間を介さずに応対できるよう、ビジネス現場や公的機関などへの導入事例も広がりつつあります。私たちは調べものの際にスマートフォン上で日常的にAIを使っていますし、特に用件はなくてもAIと雑談したり、AIに人生相談したりする者すら、老若男女問わず現れてきています。コーヒーやワインの香りについて、AIと語り合うこともできるようになりました。もちろん、専門家からすれば、知ったかぶりの素人と会話しているようなものでしょう。しかし、素人からすれば、ちょっと通ぶった先輩と話をしている感覚ではないでしょうか。大規模言語モデルが生成する文章は言語か否かという問いはもはや哲学的な意味しか持っておらず、既に人間はAIを「言葉を使う存在」とみなしているのです。
 人類史上初めて、人類以外で、人類と自然に会話できる存在が現れました。

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AIチャットボット
AIチャットボットとは、AIを利用して人間の言葉を理解し、それに対して自然な文章で応答することで会話を行うプログラムの総称です。人が入力した質問や発言の意味を解析し、適切と思われる答えを自動的に生成することで、あたかも人と対話しているかのようなやり取りができます。
ChatGPTはその代表的な例であり、AIチャットボットの一種にあたります。特に大量の文章データをもとに学習した「大規模言語モデル」という仕組みを使っているため、より自然で文脈に合った応答ができる点が特徴です。つまりAIチャットボットという広いカテゴリーの中に、ChatGPTのような高度な対話型AIが含まれている関係になります。

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香りがわかるAI

 香料会社では、ユーザーから香りのイメージを説明してもらい、それに合致した香りを選ぶ・創ることが必要になります。現在は、熟練した人間の専門家(調香師)が、経験や知識に基づいて香りを提示しています。これまで、専門家の経験やノウハウを自動化することは難しく、またそれらは専門的な訓練によって習得するしかありませんでした。このような、訓練された人間にしかできないことを、はたしてAIで実現できるでしょうか?
 これまでの香りに関する研究は、嗅覚受容体活性と香気成分の関係の解明など、分子レベルのアプローチや、官能評価によるアプローチが主なものでした。これらのアプローチにおいてAIを活用する試みも進んでいます。しかし、日本語や英語のような自然言語が扱えるようになった現在のAIを駆使すれば、また別のアプローチも視野に入ってきました。
 香料会社には、ユーザーが欲しい香りのイメージを自然言語で説明した文章(香りのリクエスト文)と、それに対して実際に調香師が選び、創り上げた香りサンプルがセットになったデータが大量に蓄積されています。香りが同じタイプであっても、それを形容する言語表現は無数にあり、また主観的でばらつきも大きいため、香りのリクエスト文が同じということはありません。とはいえ、人間が読めば、同じような香りを想像しますし、専門家が読めば、さらに香りのタイプを絞り込めます。人間は、「自然言語で書かれた文章を読んで」、「その意図をくみ取って」、「求められているものを選択する」という行為を行っているわけです。これをAIにどのように代替させるかが課題です。

大規模言語モデルも活用 香りを選ぶAIの研究

 長谷川香料(株)総合研究所と関西学院大学工学部の巳波研究室との共同研究では、この挑戦的な課題に取り組みました。そして、これを解決する方法として、「リクエスト文のベクトル化」と「ニューラルネットワークによる予測」を組み合わせるというものを新たに開発しました。
 ここで「リクエスト文のベクトル化」とは、文章に対して一つのベクトル(数値の集合をリスト化したもの。高次元空間内の一つの点とも言えます)を対応させることです。ただし、類似した意味を持つ文章に対しては、「近い」ベクトル(高次元空間内で距離的に近い)が対応するようにします。この部分に大規模言語モデルを活用したのです。
 次に「ニューラルネットワークによる予測」というものは、ベクトルが与えられたとき、それに香りサンプルを対応させることです。全体としては、香りのリクエスト文が与えられると、それをベクトル化し、香りのタイプを出力するという流れになっています。このように作られたAIに、香りのリクエスト文に対して実際に調香師が選び、創り上げた香りサンプルのデータセットを学習させます。つまり、香りのタイプが同じであれば、リクエスト文が異なっても、意図しているものは同じだということを学習させ、その香りサンプルが出力されるように訓練します。そうすると、香りのリクエスト文で新しいものが与えられたとしても、その文の意図をくみ取り、対応する香りサンプルを出力するものができあがるのです(下図)。

 実際に性能評価してみると、このAIが出力する上位候補に90%以上の確率で、香りの専門家が選ぶものと同じものが含まれるようになりました。このAIを用いれば、香りの専門家に選んでもらわなくても、求める香りを誰でも容易に得られるようになったわけです。香りを選定するAIの完成です。
 これは、言語を通じた人間同士の意思疎通、特に感性に関わる部分のコミュニケーションをAIがサポートできる可能性を示唆しています。例えば食品分野においては、フードロス問題の解決や、代替タンパク質など地球環境にも配慮した新規食品の普及が喫緊の課題となっています。実際、2025年には日本成長戦略会議においてフードテックが戦略分野の一つに位置づけられました。食品分野の課題解決における最も重要な観点の一つは、消費者に受け入れられる「おいしさ」です。食品香料は、香りを付与することで食品のおいしさを支える大きな役割を担っています。そのため、香りの選定や創出などをサポートする「香りのAI」に関する研究開発がこれからの社会において一層重要になることは間違いありません。

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フードテック
フードテックとは、食品や食に関わる分野にテクノロジーを取り入れ、新しい価値や仕組みを生み出す取り組みのことです。AIやデータ、バイオ技術などを活用して、食料生産の効率化や新しい食品の開発、流通や外食の仕組みの改善などを目指します。またフードテックは、食料問題や環境問題の解決につながる重要な分野として注目され、2025年には日本成長戦略会議において戦略分野の一つに位置づけられました。これにより、技術革新を通じて産業の発展と持続可能な食の実現を同時に進めることが期待されています。

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言葉と思考とAI

 AIが香りを選定できるようになってきました。人間の専門家は不要になってしまうでしょうか? さまざまな分野でAIが仕事を奪うといわれています。人間にしか扱えなかった香りの世界にも、いよいよAIが迫ってきたのでしょうか。
 ところで、ジョージ・オーウェルの小説『1984』には、ニュースピークと呼ばれる架空の言語が登場します。作中の全体主義体制国家が実在の英語を基に作った新しい英語です。その目的は、言葉を制限し、イデオロギーに反する思想を考えられないようにすることで、支配を盤石なものにすることです。ニュースピークの基本的な原理は、言葉が存在しない対象については考えることができない、ということにあります。例えば「自由」という言葉が最初からなければ、それを求める発想を持てないだろうということです。

言語相対論

 言語によって思考を支配しようとする考え方は、サピア=ウォーフの仮説である「使用する言語の構造が、話者の思考や世界観や認知に影響を与える」という考え方(言語相対論)に近いものと言えるかもしれません。言語によっては、ある概念に対応する言葉を持たない場合があります。例えば、日本では虹には7色あると認識され、それぞれの色に対応する語彙がありますが、この数は世界で共通のものではありません。4色や2色というところもあるようです。見ている虹は同じであるにもかかわらず、それを識別する色の数は異なるのです。ある色を表す語彙があれば、その色を識別し、含まれていることを明示的に言葉で指摘することが容易にできます。しかし語彙がなければ、言葉を連ねて説明する必要がありますし、主観的なものなので、人によるばらつきもあるでしょう。他の例として、ブラジルのアマゾン熱帯雨林に住む狩猟採集民族であるピダハン族は、数の概念を持っていない、少なくとも私たちの有する数の概念とは異なるようだという報告があります。数学は人類どころか宇宙共通の概念であるとも考えられていましたが、それが揺らぎかねません。色や数だけではなく、香りも同様です。例えば、ヒノキの香り、柚子の香り、ほうじ茶の香りは日本では一般的な香りであり、香りを嗅いだ時、対応する言葉ですぐに特定することが可能です。しかし、ヒノキや柚子やほうじ茶という言葉がなければ、その香りを言葉で表現することは容易ではないでしょう。街を歩いているときに店先から漂ってきた香りに対して、言葉があればすぐに気付いて立ち止まるかもしれませんが、言葉がなければ、多くの香りの中に埋もれているために特に注意を払うことなく通り過ぎてしまうかもしれません。これらの例は、思考、言語、そして世界観や認知は相互に影響しあっていることを示しています。

記号接地問題

 記号接地問題というものがあります。1990年頃に認知科学者スティーブン・ハルナッドによって提起されたもので、AIやコンピュータが扱う「記号」が、現実世界の「意味や実体」とどのように結びついているか(接地しているか)という哲学的な問いです。人間は言葉と実際の香りの体験を結びつけて認識していますが、少なくとも現在のAIにはそれはできていません。そのような現在のAIが出力する「言葉」は、単なる記号処理にすぎず、実体験に基づく本質的な理解がない、つまりAIは香りを理解しているとは言えないという考え方もあります。いずれ、身体や五感センサーを持ったAIロボットが世界と相互作用しながら学習していくと、記号と実体がつながりますが、AI内部では相変わらずアルゴリズムに基づいて記号処理をしているにすぎません。それでもなお、記号処理しているだけでは理解しているとは言えないのでしょうか。理解とは何かということとも関わる哲学的な問題です。

現在のAIと人間の関係

 長谷川香料との共同研究で開発した香りのAIは、現時点では記号と実体がつながっていないにもかかわらず、既に高い性能を実現しています。 AIは柚子の香りを嗅いだこともないのに、香りのリクエスト文が求めているのは柚子の香りだと正しく出力できるのです。実用主義的な立場では、香りを真に理解しているか否かはどうでもよく、有用なツールとして使えれば良いでしょう。ただし、AIに限りませんが、ツールの限界は把握しておかなくてはなりません。香りのAIの限界の一つは、当然ながら、学習に用いた香りのタイプ以外の香りについては答えられないということです。また、学習に用いた香りのタイプであっても、そのリクエスト文が、学習に用いたものとはかけ離れた表現のものであれば、やはりうまくいきません。学習では直截的な表現の文ばかりであるにもかかわらず、入力されたリクエスト文が詩的な文学表現のものであれば、指し示すものが同じ香りのタイプであったとしても、当てることは困難でしょう。私たちが開発した香りのAIは、香りのリクエスト文だけでなく、膨大な一般の言語表現のデータを学習させたものも組み合わせていますので、対応範囲はかなり広いものですが、これまで世になかった斬新な表現であれば、やはり難しいでしょう。そのようなものであっても、人間ならば結構当てることができます。なぜそのようなことができるのでしょうか? 人間は身体と五感に関する膨大な体験を持っており、それらと言葉が結びついているのです。そのため、文章やそれ以外でも、表現などから香りを想起できるような結びつきが人々の間で共有されているならば、可能となるのです。逆に言えば、共有されていなければ理解できません。柚子やそれに関することを知っている人の間ではその香りや感覚を容易に共有できますが、知らない人に伝えることは容易ではありません。AIは、身体や五感で感じるものと言葉を結びつける手段をまだ持っていないだけであり、そのためそのような結びつきを人間とまだ共有できていないだけかもしれません。
 改めて考えてみましょう。人間の専門家は不要になってしまうでしょうか? 将来、身体と五感に関する膨大な体験を持つAIロボットが登場したならば、そうなってしまう可能性はあります。しかし、まだ存在しません。また、必要な性能を有するハードウェアやセンサーは研究途上であり、すぐに実現する見込みはありません。身体と五感に関する膨大な体験を活かした判断では、人間にはまだ一日の長があります。といっても、人間はまだAIに負けていないというつかの間の安心感を与えたいわけではありません。いま目をつけるべきは、ここにビジネスのチャンスもあるということです。例えば、比較的簡単なリクエストには、テキストデータを使って学習させた香りのAIを使って対応することで、圧倒的なスピードで香りのサンプルを提供できるようになります。人間の専門家は、身体と五感を研ぎ澄まし、これまでになかったような香りや、感動を生み出す新たな香りの創出など、高度で難易度の高いリクエストへの対応に集中できるようになります。いわゆる、プロの腕が鳴る仕事に専念し、さらに高いレベルのものを実現できるようになるのです。
 香りの分野に限らず、現在のAIにもできる程度の仕事を続けることに固執していれば、早晩淘汰されるでしょう。これまで人類が生み出してきたさまざまな機械やツールは、肉体労働や単純作業を効率化するものでしたが、現在のAIは人間の思考をサポートするものであり、質的に異なるツールと言えます。とはいえ、AIはなんでもできる神様ではありません。社会やビジネスの課題などを解決するためには、他の要素も組み合わせて総合的に解決策を構築しなければなりません。それを行うのはまだ人間です。自分の頭脳の拡張ツールとしてAIを使いこなし、これまで以上に高いレベルのことを実現できるように常に自己変革していくことが重要です。

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サピア=ウォーフ仮説(Sapir-Whorf hypothesis)
アメリカの言語学者エドワード・サピアとその弟子ベンジャミン・リー・ウォーフによって提唱された理論。人は自分の使用する言語を通して世界を認識するため、言語が異なれば世界の捉え方も異なる可能性があるとする考え方。

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語りえぬものと言葉、
そして人とAIと香りの未来

 哲学者のルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタインは、『論理哲学論考』において、「語りえぬものについては、沈黙しなければならない」と述べました。「私の言語の限界は、私の世界の限界を意味する」とも述べており、言葉で扱うことのできない領域があることを示唆するものです。論理的に扱える世界の中では決定不可能な命題や計算不可能な問題が存在するという、ゲーデルの不完全性定理やチューリングの計算不可能な問題の存在のようなことを指すだけでなく、価値・倫理・意志・自我・神のようなものも語りえない対象とされているようです。
 語りえぬものは存在し、人間はその存在を漠然とであっても認識することができ、共有し、共感することすらできます。一方、現在のAIはまだ、語られていないものは学習できず、認識できず、共有できず、ましてや共感することもできません。
 日本には、香木の香りを鑑賞する「香道」というものがあります。香道においては、香を鑑賞することを「聞く」と表現します。もともと「聞」という漢字には、嗅覚を含む五感によって感じ取るという意味があったようです。香木の香りを通じて自然を感じ取り、古典文学・詩歌・故事・情景に心巡らせる、文学性・精神性の高い日本の芸道です。
 香道は、香りというものを通じて、ヴィトゲンシュタインの言う「語りえぬもの」の領域をも認識しようとし、言語に縛られた世界の限界を広げようとするものと言えるかもしれません。それを苦行ではなく、楽しみながら行おうとするところに、悠然とした姿勢を感じます。

「語りえぬもの」と「対話」できる可能性

 身体や五感で感じるものと言葉を結びつける手段をAIが持つようになり、それを人間と共有できるようになると、「語りえぬもの」を人間がAIと共有することも可能になるかもしれません。ここでAIを持ち出すのは無粋なことかもしれませんし、美しい精神世界を汚すような心苦しさを感じるところではあります。しかしその一方で、数学の研究者でもある私にとって、抽象的な思考の結晶である数学が生み出した高度なアルゴリズムであるAIも、香りの奥深い世界と同様に美しく、それが「語りえぬもの」と「対話」できるようになる将来の可能性が垣間見えてきたことに感動もあるのです。
 人間が先導して世界を広げ、AIをパートナーとして育て、協働してさらなる高みに到達しようとするのか、たかが機械と侮ったり人間を脅かすものとして退けたりするのか、現在の私たちは選択の岐路に立っています。
 「陽の光をたっぷり浴びた柑橘の皮をそっと弾いた瞬間のように、瑞々しく透き通った気配が空気を軽くし、胸の奥まで涼やかに抜けていく。かすかに混じるほろ苦さが、一抹のせつなさも覚える夏の記憶まで呼び覚ますような、繊細で奥行きのある香りだった」。これがどのように作られた文章か明らかにするのは、ここでは控えておきましょう。

AIをパートナーとして未来を拓く

 言葉には「言霊(ことだま)」があるといわれます。それは言葉の表面的な意味を超えたところにある「語りえぬ」領域にあるもののことかもしれません。宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』には、名前を奪う・名前を取り戻すというシーンがあります。千尋は「尋」の字を奪われ、ハクは「ニギハヤミ コハクヌシ」という名を奪われましたが、最後には二人とも名を取り戻します。名前が思い出されることで、それぞれにとっての世界が取り戻されます。これは、言霊と言葉の不可分性を示唆しているようにも思います。「語りえない」言霊だけが大切なのではなく、言葉そのものも同様に大切です。言葉にすることで価値が損なわれるからと言葉にしないことで守られるものもあると同時に、拓けない世界もあります。
 香りについて、もっと語りましょう。たとえ正確でなくても、矛盾があっても、多くの言葉を紡いで「語りえぬものを語ろうとする試みの積み重ね」によって、私たち自身の世界が広がると同時に、いずれ人間と同様の機能も持ったAIと世界を共有できるようになり、AIは人間と協働するパートナーとして育ち、人間だけでは到達し得ない高みに向かい、そして世界はより豊かになると、私は確信しています。

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