随時、香りに関する用語解説を追加していきます。
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酵素反応フレーバー
酵素の力で香りを強くする、
新たな香りを生み出す。
酵素と聞いて思い浮かべるものはありますか? 酵素ドリンク、酵素サプリ……なんとなく体に良いイメージをもっている方も多いのではないでしょうか。
今回は、酵素と酵素の力を利用したフレーバーについて解説します。
酵素とは
酵素はタンパク質で構成される物質であり、人間を含めた生物が生きていく上で欠かせないさまざまな働きをします。例えば、食物を消化するときには、唾液や胃液に含まれる酵素が活躍します。味噌やパン、ヨーグルトなどの発酵食品も微生物がもつ酵素の働きなくしてはつくることができません。
私たちにとって身近な酵素の力は、食品加工にも利用されています。食品成分を酵素分解して、香りを強くする、新たな香りを生み出すなどおいしさを付与することができる素材を酵素反応フレーバーといいます。
酵素反応フレーバーの代表、
乳製品フレーバーの場合
酵素反応フレーバーの代表例として、牛乳やバターなどの原料に脂肪を分解するリパーゼという酵素で反応した乳製品フレーバーを挙げることができます。牛乳の味わいは、乳脂肪や乳タンパク質、乳糖や塩類などから形成され、牛乳の香りは、微量のラクトン類や脂肪酸類、カルボニル化合物などから形成されています。脂肪酸は乳脂肪が分解して生じる成分であり、脂肪酸の種類によって香気や呈味の特徴は異なるため、どの脂肪酸をリパーゼで遊離させるのかという点が乳製品フレーバー開発のポイントになります(下図)。
中でも、炭素数4の酪酸や炭素数6のヘキサン酸は短鎖脂肪酸と呼ばれ、牛乳や羊乳、山羊乳など限られた動物性脂肪にのみ含まれる特徴的な脂肪酸です。これら脂肪酸は揮発性が高く、ツンとした香りを感じる物質ですが、牛乳やチーズにフレッシュな香りを付与するためには重要な成分です。
このように目的の成分に狙いを定めて増やすことができるのも、酵素がもつ重要な性質といえます。酵素反応フレーバーは、「香り」「呈味」を増強できるので、乳の風味を強めたい食品に対して素材の風味を活かした自然なおいしさを付与しています。
今回ご紹介した乳製品フレーバーのほかにも、さまざまな食品素材と酵素の組み合わせを変えることで多様な酵素反応フレーバーをつくり出すことができます。
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